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  名古屋和合RC  鷲塚 貞長

  (ワシヅカ獣医科病院・院長)

*プロローグ
 土曜日の夕刻帰宅すると、当院のクライアントの高校教諭・仲田先生より、1通のFAXが届いていた。「先生、隣接の大学の、池のアヒルのくちばしに、数日前より太い紐の様な物が絡まり、餌が食べられません。行政機関に救出を依頼しましたが、すべて断られました。「“助けてください”」。
 消防署「人命以外は出動しない」、動物園「大学の構内なので…」、「野性動物は管轄外で…」動物愛護センター。話にならん、何たるお役所仕事、先生たちはカンカン。しかしながら、現実の問題としてどうしよう。かくしてその後、冬の池に頭から転がり落ちるはめとなる、救出劇へと突入していく事にあいなった。
 日暮れ間近の水面には、2羽のアヒルが游いでいる。「まだ元気そうだなー」「衰弱の様子もない、体の張りも有るな」。現場は一応大学の敷地内、厳重にフェンスで囲まれ、土、日は大学の管理責任者とのコンタクトが取れない。日曜にもう一度、被害アヒルの状態を確かめ、ほとんど変化がないことが確認したので、救出作戦は月曜と決した。 (写真1)

*作戦開始第1日
 小生宅には、のんびりタイプのカナディアンと、スピード型の2艇のカヌーがある。日曜日に、フェンス越しに餌を撤くと近寄ってき、多少は人馴れしていることが解っていたので、スピードタイプ・カヌーで静かに接近し、餌を撒布、アヒルが近寄ってきたところを、動物園より借料の、長柄のタモを頭からばっさり、と簡単に考えていた。
 微速前進で接近、餌を撒くが見向きもしない。ターゲットもさるもの、スイスイと游ぎ距離を詰めさせない。また、こぎ手の名大付属高校の体育教諭中村先生は、カヌーは初体験、方向転換がスムースに行かない。しばらく堂々巡りの後、アヒルの警戒心がやや薄れ、竿の長さの距離に時々近づけるようになった。ここぞと網をかぶせる。何とターゲットは、垂直潜行し、難なく網を掻い潜るではないか。数回繰り返すが、いとも簡単に掻い潜る。網ですくうには、網が水の抵抗で重く、それも不可。しかしながら数日の絶食のせいか、ターゲットの動きが少し緩慢になってきた。“チャンスだ”、と思いすこし重心を上げたのがいけなかった。カヌーは見事にひっくり返り、初冬の池に真っ逆さま、二人とも水も滴るいい男となる。お陰で、携帯と自慢のブーツはお釈迦、それでもめげずにさらに30分頑張る。気化熱でさすがに寒い。我慢も限界と当日は救出作戦を打ち切る。
 土手で待ち構えていた数社の報道陣は、「これからどうしますか」「明日は何時からですか」「何か妙案ありますか」などなど、着替えもなく「寒い」と言っていることなど何処吹く風。30分ほどで報道陣を振り切りほうほうの体で帰宅。
 夕刻、発見者の仲田先生とも協議、明日は、付属高校の体育用具の網と、さらにカヌーを増やし、地引網方式で望む方針を決める。


 写真1
 猿ぐつわ状に何か赤い物がはまってる・・・
 苦しそう・・・何だろう?

 (中日新聞社写真部提供)
*第2日
 この騒動、地元紙などの朝刊に掲載されたことより、波紋が大きく広がり、杜若高校カヌー部学生をはじめとし、ダイバーなど、多くのボランティアの方々が参加。報道陣やギャラリーも大変な数に膨らみ、お祭り騒ぎとなる。
 カヌー3艇、野球用バック・ネット2張り、タモ(陸上5ヶ所、船上5個)、ダイバーを含む総勢約20名が当日の布陣。救助作戦はミーティングの後、午後1時より開始された。
 池の北端は浅瀬なので、潜水逃避が防ぎ易い、そこにネット2張りをセットし、3艇で追い詰め、その間隙をダイバーが埋める。昨日あえなく落下の中村先生と、同僚の大林先生(ご婦人)は、本日はウエットスーツ姿で気合十分。一艇は、一人乗りのカヤックで小回りが利く。今日こそ救出するぞと、歓呼の声に送られて総員船上の人となる。
 作戦開始約30分、追い詰めるが、何処かの隙間からか巧みに潜水脱出、とんでもないところで、ポカーッと浮上する(写真2)。ますます増えたギャラリーが、その都度大騒ぎ、いい大人がさんざん振り回され、とんだ道化を演じさせられる。
 その時痺れを切らした高校生が、カヌー横を潜水するアヒルめがけて飛び込んだ。驚いたアヒルが慌てて浮上したのが、何と中村先生の真横。かくして、被害アヒルはタモですばやくすくい上げられ、大歓声の中、救出作戦の第一幕が下りた。中村先生の笑顔とガッツ・ポーズが爽やかだった。タモの中のアヒルは、小生こぎ手のカヌーの後座で、大林先生に宝物の様に大切に抱きかかえられ、応急処置の往診鞄のある対岸へと向かった。(写真3)
 カメラの放列の中での健診で、首にさるぐつわ状に掛っていたのは、プラスチック製のボトル・ホルダーの蛇腹を縮めた様な物体(写真4)。心配された後頭部の損傷は、羽毛で保護され問題なく、口腔内では、舌根部に軽度の絞扼創を認めたに過ぎなかった。創口消毒、ロング・アクティングの抗生物質を胸筋に注射し、万来の拍手の中、発見者、仲田先生の手でやさしく池に戻された。(写真5・写真6)
 岸から10mも離れた時であろうか、アヒルは幾度も首を伸ばし、また、口をゆすぐ様な仕草を繰り返した。数日の窮屈な姿勢から解放された喜びを、全身で示す被害者(?)に、また、拍手が起こった。

*エピローグ
 人の手で山を荒らされ、飢餓に耐えかね人里に降り、無心に柿の実を食している子づれの熊が、親子もろとも射殺される。密飼いされた鶏が、トリインフルエンザに罹り、まるでゴミのように埋め立てられる。草食動物の牛に、肉骨粉を共食いさせた結果の狂牛病、などなど。動物にかかわる昨今の話題は、全ては、人のなせる悪行の所産であり、何とも物悲しい。
 そこにこの度のアヒル騒動、1羽の野生(?)アヒルの救出に、多くの人々が真正面から臨んだ。そしてその小さな命を救った。「1億円貰ったかどうか忘れた」、何ともバカバカしい昨今の世相であるが、日本人もまだ捨てたものではない。と思った。   H16.12.1

 写真2
 3艇とダイバーの包囲・・ネットで巻き込み・・それでも逃げる。
 ・・・そうだ、奴は水中でも目が見えるのよ。

 (名古屋大学付属高校提供)
 写真3
 社若高校カヌー部員(アテネ五輪出場)痺れを切らし
 アヒルに向かってとび込む・・・奴はビックリして急速浮上・・・
 中村先生“御用” ヤッタァ〜 ヤッタァ〜
 ギャラリーの大歓声・・・・・・・
 
  (中日新聞社写真部提供)
 写真4
 こんな物が・・・これは何でしょう?
 プラスチックでジャバラがそのまま硬化したもの・・
 放っておくと、命取りでした。

 (鷲塚貞長撮影)
 写真5
 持続性の抗生物質注射

 (名古屋大学付属高校提供)
 写真6
 第1発見者 仲田先生の手でソーッと池に戻す
 「変なものにくちばし突っ込むんじゃありませんよ」
 「元気でねーーー」

 (名古屋大学付属高校提供)

筆者略歴 <平成16年12月現在>

ワシヅカ獣医科病院・院長、前(社)名古屋市獣医師会・会長(7期15年)、元(社)日本獣医師会理事、元中部獣医師会連合会・会長(2回)、(社)日本獣医師会…薬事対策委員会委員、獣医事対策委員会委員、獣医事審議会委員、学術教育研究部会委員などを歴任
(元)日本臨床獣医学会・評議員、(現)東京獣医畜産学会・理事、(現)日本大学獣医学会・理事
名古屋和合RC会員(1988.9.21入会)

* 昭和51年 犬脳下垂体前葉細胞の電子顕微鏡による機能的分類により獣医学博士授与(37歳)
* 平成3年  厚生大臣表彰(52歳)
* 平成6年  藍綬褒章受章(55歳)
* 平成7年  愛知県条例知事表彰(56歳)
* 日本臨床獣医学会賞・・・・・・4回受賞
* 日本臨床獣医学会地区学会賞・・6回受賞

著書:
臨床免疫学、臨床内分泌学、猫の臨床(共著)、エディンバラのボビー・・名古屋丸善で3回ベスト・セラー(平成16年5月25日、韓国DAEHYUN MOON HWA社よりハングル語訳で、韓国内で発売開始)、捨て猫エイハブ、いたずらゴロー、ちいさな命 等々

マスコミ関連(最近):
* 毎日新聞・・コラム「教えてペット」毎週(火)執筆・・H16年3月現在で2年目
* NHK TV・・おしゃべりランチ数回出演・・動物の病気解説

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