地区俳句大会を開催


 11月28日(日)、ウインクあいちにて、ロータリークラブの文化活動の一環として「国際ロータリー第2760地区俳句大会」が開催されました。
 今回の地区俳句大会は初めての催しという事もあり、地区内ロータリアン有志(名古屋南RC俳句を楽しむ会世話人・森口雅文さん、名古屋東南RC東南盃句会世話人・宮崎 薫さん、名古屋北RC俳句友の会世話人・相馬保之さん)の主催となりました。
 当日は、午後13時10分に開会。相馬会員の司会進行の下、田嶋好博ガバナーのご挨拶、講師・伊藤 敬子氏による講演「俳句を楽しく」、行使・馬場駿吉氏による「松尾芭蕉と名古屋」の講演が行われました。伊藤敬子先生からは、俳句の基本から、俳句の『格』のお話にいたるまで、実例をまじえて大変有意義なお話を伺うことが出来、俳句に興味を持つロータリアンが、さらに楽しく俳句を楽しめるようなお話をいただきました。
 また、馬場駿吉先生からは、芭蕉が土地の青年俳人等と興行した、歌仙『冬の日』のお話を中心に、芭蕉がいかに名古屋の地と深い関係を持っていたかを、興味深くお話をいただきました。(講演パワーポイント資料参照)両先生のお話は、第2760地区の初めての俳句大会の冒頭を飾るに相応しい内容でした。
 その後、各選者の先生(下記プロフィール参照)による特選句の披講と選評(各先生とも兼題句、自由句ともに特選2句、入選10句)が行われ、表彰式に移り、名古屋南RC俳句を楽しむ会世話人・森口雅文さんによる閉会挨拶にて閉会しました。大会は終始和やかな雰囲気の中で行われ、ロータリアンやロータリーファミリーの友情を深めると共に、最近失われがちな日本文化の心を取り戻す一助になれば、と念願しているところです。
 今回の俳句大会では、名古屋南RC会員・森口雅文さん、名古屋東南RC会員・宮崎薫さん、当クラブ会員・相馬保之さんに大変ご尽力いただきました。特に相馬会員には、当日の司会進行、資料作成、賞品の準備等に奔走していただき、心より感謝いたします。「今後この大会を継続してゆくかどうかは、偏にロータリアンの日本文化(俳句)に対する情熱にかかっているのではないか、と考える次第です。」


━第2760地区俳句大会特選句━
最優秀句…3句 [兼題…新米、落鮎、月、水澄む]
  敬称略

伊藤敬子選

<兼題句>
少年の夢追ひし里水澄めり /福島 自生
  ─選評─
上十二音には、作者の出郷の思いが述べられている。少年の日の夢は達成されたのであろう。下五「水澄めり」によって、透徹した現在の心境が述べられていると推測したい。よくまとまった佳吟である。
  新米や棚田棚田に笑顔満ち /浅原 光男
  ─選評─
豊の秋の季節、棚田に笑顔が満ちて、幸せで一杯である。新米を目の前にして、稲穂垂る棚田の風景は、満足するものであろう。いよいよ棚田の刈り取りははじまる。満面の笑みに豊作のよろこびがえがかれている。

<自由句>
  おちこちに落鮎跳ねて山高し /渡邊 嘉昭
  ─選評─
落鮎は錆鮎、下り鮎、子持鮎ともいう。おちこちに落鮎の跳ねる季節は、清冽な川の上流から川を下る鮎を獲るときの楽しみは、言葉に表せないものがあろう。しかしこの句、その落鮎を捕獲して焼いて、ということはいわない。ただ、背景に高い山が屏風をなしている景を、とらえている。客観としてのとらえ方に風格がある。
新涼や一礼をして山に入る /田中 勢子
  ─選評─
秋になって実際に感じる「涼しさ」をいう新涼は、立秋の季語に並ぶ。したがって八月の盆を過ぎた頃であろう。山持ちの主は山が気になって、いよいよ山に入る。「一礼をして」の中七から収穫のイメージがある。いろいろな茸の出る頃である。その山場は松茸か。山持の幸せな季節である。


馬場駿吉選

<兼題句>
  濁世にも水澄む瀬あり潭思あり /簗瀬 悠紀夫
  ─選評─
潭思とは深く思うこと。混沌とした世に生きる中でも、清らかな秋の流れに目をとめ、淵のような静寂に思いを深める一瞬を持つ作者の姿が、浮かび上がってくる一句。
新米をかみしめて父母世にあらず /森口 雅文
  ─選評─
かって共に新米の恵みを享受した父母は、もう世にいない。“かみしめて”におのずからその追憶の情の深さがうかがえる。

<自由句>
  青墨の匂ひ広がる良夜かな /玉井 美智子
  ─選評─
硯から立ちのぼる青墨の香と月光とが交わる、清澄な空間に座しているこの作者の筆からは、どんな墨象が現れるのか。この句を読む者も至福の一夜に誘われる。
  亀鳴くを待つやお軸を拝見し /澤田 伊三夫
  ─選評─
“亀鳴く”は春の空想的な季語。しかし、美の極みの軸物を眺めているうちに、亀の幻の声をきくめでたさに出会えるのではないか、とふと思わせられる作。優品を見せてくれた主へのあいさつ句だろうか。


大島宏彦選

<兼題句>
  吊革の人みな無口窓の月 /田嶋 紅白
  ─選評─
職業人の帰宅時の自然な風景を詠み込んだ句。事実立っている人は本も読まず、携帯も使わないケースが多い。勤務中の忙しさを思い出しながら、窓の月を眺めることになる。
  月天心優勝に酔ふ人の波 /吉田 春陽
  ─選評─
今シーズンは野球でドラゴンズのセリーグ優勝に続き、サッカーもグランパス独走と当地のスポーツは話題豊富。それにぴったりの句はついつい取り上げてしまうことになる。

<自由句>
  古希もまた我が里程標草青む /奥山 清介
  ─選評─
ロータリアンの平均年齢が上がっている昨今、古希は珍しくはないが、これからが人生だという気概を「草青む」の一語にあらわしたのはロータリー俳句会に相応しかった。
  老いてなほ願は多し流れ星 /鈴木 輝彦
  ─選評─
例会の話題をそのまま句に仕上げた感じ。前の句より実感は強いかもしれない。先日オーストラリアで観測された宇宙衛星「はやぶさ」の帰還は、壮大な流れ星で感動した。


矢野孝子選

<兼題句>
  さはさはと木々の鳴る音霧月夜 /金子 紀子
  ─選評─
月の夜に、林の中を音を立てて霧が流れる光景は、幻想的ですね。「さはさは」の表現が、秋の空気の感じを良く表していると思います。
  結納の夜を新米でもてなされ /佐々木 康之
  ─選評─
晴れやかな宴に、作者は新米でもてなされた事が一番嬉しかったのではないでしょうか?。新米のご飯の香りや温みから、作者の気持ちがイメージできて、読み手まで幸せな気分になれそうです。

<自由句>
  吹き抜ける風を形に花吹雪 /田嶋 紅白
  ─選評─
花吹雪は、すべて風が生み出す形であることを、この句から再認識しました。櫻の花の持っている情緒を、美しく表現されています。
  蜩やふり仮名で詠む正信偈 /前﨑 緑水
  ─選評─
「正信偈」は、親鸞の書とか・・・作者はひたすら〈ふり仮名〉を追いながら、詠んでおられます。(声に出しておられるのでしょう。)いつの間にか蜩の声と唱和しているようで、しみじみとした感じの句となっています。

→各先生の入選句は、『特選・入選句集』をご覧ください。[Word]
→投句者全員の句は、『俳句大会投句集』をご覧ください。[Word]


講演会講師ならびに選者の先生方のプロフィール

伊藤敬子氏

愛知県生まれ。
愛知県立旭丘高等学校在学中より句作。
愛知淑徳大学大学院博士後期課程修了。
山口誓子・加藤かけいに師事。環礁賞、新美南吉文学賞、愛知一中鯱光会記念賞、都市文化奨励賞、愛知県芸術文化選奨文化賞、山本健吉文学賞など受賞。
句集『光の束』『鳴海しぼり』『存問』『百景』『白根葵』
評論集『写生の鬼』『ことばの光彩―古典俳句への招待』『高悟の俳人―蛇笏俳句の精神性』入門書『やさしい俳句』 他多数。
東海俳句懇話会主宰、「笹」主宰、芭蕉顕彰名古屋俳句祭会長、俳人協会評議員、日本現代詩歌文学館評議員、日本文藝家協会会員、日本ペンクラブ会員。

馬場駿吉氏

名古屋市生まれ。
名古屋市立大学医学部卒業、同大学医学部教授(耳鼻咽喉科)同大学病院長、日本耳鼻咽喉科学会会長、名古屋市美術館参与、名古屋南ロータリークラブ第 48代会長などを歴任。名古屋市芸術特賞などを受賞。
現在、名古屋ボストン美術館館長、名古屋市立大学名誉教授、名古屋造形大学客員教授、名古屋演劇ペンクラブ理事長、芸術批評誌「REAR」編集同人、現代俳句協会会員。
中学時代に俳句入門、故橋本鶏二に師事、医学教育、研究、診療のかたわら句作。1960年初頭より詩人滝口修造とその周辺の多くの芸術家たちの知遇を得て、美術、演劇、舞踊、映像、音楽、文学、など多様な現代芸術の最前線に立会い、評論、エッセイを新聞、雑誌などに執筆。
著書は、句集、批評ほか、医学関係書など多数。

大島宏彦氏

名古屋市生まれ
昭和32年  中日新聞社 入社
中日新聞社社長、会長を歴任
現在 中日新聞社最高顧問
この間、名古屋ロータリークラブ会長、国際ロータリー第2760地区ガバナーを歴任
平成 3年 俳誌「笹」に連句「金の燭」を発表
(名古屋ロータリークラブでの伊藤敬子氏スピーチが縁)
平成18年 川口順啓氏と連句集「行雲」出版
平成19年 芸文センターで公開連句会を開催
(以後毎年1回、馬場駿吉氏らと参加)

矢野孝子氏

春日井市生まれ。瀬戸市在住。
昭和61年 俳句結社「風」入会。
平成10年 俳句結社「伊吹嶺」入会。
平成14年 俳句結社「伊吹嶺」同人、俳人協会会員となる。
平成17年 「伊吹嶺」叢書第22編として、句集『草の花』出版。